推薦図書 by教員

2015年度

2015年度 推薦図書

線虫の研究とノーベル賞への道
: 1ミリの虫の研究がなぜ3度ノーベル賞を受賞したか

大島靖美【著】(裳華房・2015)

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推薦者 佐藤恵(生物学) 

センチュウはわずか1mm程度の地味な生物ですが、ゲノムだけでなく、発生の際の細胞の分化や生活史などが徹底的に解析されているために、優れたモデル生物として様々な研究に用いられています。

最近も、センチュウの嗅覚の研究から、尿でがん患者を識別するという研究が報告されました。

本書では、センチュウの種小名のとおりエレガントな研究を詳細に、しかし分かりやすく記載されています。遺伝子の発現調節などの理解に必要な基本事項にも紙面を割いているので、授業で学修した事項とそのアドバンスを含めて読み進めることができるでしょう。

本書には残念なことがひとつあります。手に取った印象がいかにも教科書的であることです。この小さな生物をめぐる大きなドラマを多くの方に楽しんでもらいたいと思います。

2015年のノーベル医学・生理学賞は「寄生虫による感染症治療薬の発見」に対して屠呦呦(トウ・ヨウヨウ氏)、大村智博士、William Campbell博士が受賞されました。大村博士の発見した「エバーメクチン」が抗線虫活性物質として線虫が引き起す病気の治療薬として世界中の人々や動物を救ったことに与えられたものです。つまり、線虫は4度目のノーベル賞の対象となったわけです。

2015年度 推薦図書

キリンの斑論争と寺田寅彦

松下貢【編】(岩波書店・2014)

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推薦者 磯川桂太郎(解剖Ⅱ)

医学と歯学が一元か二元かという論争があったことは,本学部創設者の佐藤運雄先生を語るときに必ず取り上げられるエピソードです。進化論,量子力学などをはじめ,科学の世界では実に様々な論争があります。

本書は,約80年前,岩波書店の「科学」の誌面で展開されたキリンの斑(まだら)模様の成因についての論争を採録・検証し,また,4名の現代の識者による解釈を加えています。誌面論争は,随筆家としても知られる物理学者・寺田寅彦の門下の平田森三による問題提起で始まり,物理と生物の学者6名から延べ7件の寄稿があり,半年後,寺田論文がこれらを結んでいます。

本書での今日的解釈の筆者には,魚類の模様がTuring理論に従うことを証明した(Nature, 1995)ことで知られる近藤滋博士の名もあります。近藤先生は,本年5月TV放映の「所さんの目がテン第1274回・生き物『模様』の科学」にも出演されています。

2015年度 推薦図書

遺伝子図鑑

国立遺伝学研究所「遺伝子図鑑」編集委員会【編】(悠書館・2013)

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推薦者 酒井 秀嗣(生物学)

遺伝学研究所に関係した80人を超える研究者が、歴史的研究から最新のトピックまで、108の項目について分かり易く解説している。それらの項目は遺伝学のみに留まらず、生物学のいろいろな関連した分野に及んでいる。しかも本書は図鑑である。ひとつの項目は綺麗な図表をふんだんに使って、見開き2ページに読み易くまとめられている。

講義で習った後に読むと、さらに理解が深まる。もちろん、単なる読み物としても楽しい。実は、講義のネタ本にもと考えている。ネタバレになるので読んで欲しくない気持ちもある。それほどオススメ。

2015年度 推薦図書

アイスクリームで味わう、”関係”の統計学

向後千春、富永敦子【著】(技術評論社・2009)

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推薦者 宮崎 洋一(数理情報)

統計学も2変数のデータを対象としたものになると、適用範囲がぐんと広くなりより実用的になります。それを支える数学も、多変数の微積分や、行列・固有値などを扱う線形代数など幅広くなり、難しくなってきます。しかし、統計学ではそれを支える数学の理解よりも、統計的な解釈を正しく行うほうが重要です。その点、本書では必要とする数学の知識を中学レベルのものに抑え、相関関係、回帰分析、因子分析を中心とした多変量の統計手法をやさしく説明しています。

データ分析のために計算すべき公式は、数学的な証明を与える代わりに、その公式の持つ意味や背景を豊富な図により説明されており、直感的な理解が深まるようになっています。この分野の書物を一通り学んだことのある人でも、本書に目を通せば得るものがあるはずです。

本書は、1変数のデータを対象とした前著「統計学がわかる ハンバーガーショップでむりなく学ぶ、やさしく楽しい統計学」を理解した人が次に取り組むべき本であるとも考えられ、工夫された説明のおかげで、軽快に読み進めることができます。それでも、多変数の統計学を扱っているため、それなりに頭脳をフル回転させる場面にも出くわすことでしょう。

しかし、心配には及びません。なぜなら、所々に散りばめられている(オヤジ)ギャグが、ヒートアップした頭を休めてくれるから。それに、扱っている題材もアイスクリームなので。本書をマスターした暁には、どんなレベルに到達できるか。それを本書のギャグに見習って述べるならば、「誰よりも統計学をアイス」頭脳が出来上がっていることでしょう。