推薦図書 by教員

2022年度

世界は分けてもわからない

福岡伸一(講談社・2009)

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推薦者 山口 洋子 専任講師(生化学講座)

福岡博士の本というと「生物と無生物の間」「動的平衡」がとても有名ですが,私は「世界は分けてもわからない」を是非,皆さんに手に取っていただきたいと思いました。

10 年以上前になりますが,福岡博士の講演を聴く機会があり,その時にイタリア人画家ヴィトーレ・カルパッチョが画いた絵のお話をされていました。
それは,もともと1枚の絵が,強欲な画商によって半分に切り分けられて「ラグーンでの狩」と「二人の貴婦人」の別々の絵として違う美術館に展示されたというお話です(ちなみに今も別々の美術館に展示されているそうです)。
この 2 枚が長い年月を経て偶然同じ美術館に展示された際,切り分けられた 1 枚の絵であることが判明。私は写真で観ただけですが,1 枚の絵として眺めているときと別の絵として眺めているときでは,同じ絵でも全く異なる印象を受けました。このことに衝撃を受け,目で見えているものだけをみる危うさ,とても怖いと感じました。

この本の中では,カルパチョの絵の話もそうですが,「目からウロコ」的な話が満載です。章ごとに違うテーマでまったく違う話みたいに感じるのですが,読み終わるとちゃんと繋がっている。今,見えているものは,ほんの一部で,マウリッツ・エッシャーの不思議絵が既成概念を壊して成立しているように,今まで見てきたものや考え方だけがすべてではないということを改めて教えさせられます。

福岡博士は著名な分子生物学者ですが,研究をすればするほど,どんどん小さな小さなものが対象となり,奥へ奥へ入り込んでしまうことに疑問を感じ「切り取られた一部分を見ても何もわからない」とのお考えに至り,文系の学者に転向したそうです。
この概念,なんでも同じだと思います。例えば,大学での勉強も,一見,教科間で繋がりかないように思える内容でも実はすべて繋がっています。そのことにどれだけ気が付けるかによって,学習効率が大きく変化,成績向上にも役立つのではないでしょうか。
福岡ワールド,なかなか興味深く,引き込まれること間違いなしです。