推薦図書 by教員

2023年度

流浪の月

凪良ゆう(東京創元社・2022)

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推薦者 安川 拓也 助教(歯科保存学第Ⅱ講座)

「うちにくる?」
ある雨の日,公園のベンチで座りつくしていた小学生の更紗に,そっと傘を差し出し,そう声をかけてきた大学生の文。

大好きだった両親を亡くし,だんだんと自分の居場所や生きる希望を失っていた更紗にとって,その一言はまさに唯一の光でした。
年齢も性別も全く違う,家族でも恋人でもない2人の奇妙な共同生活が始まりますが,徐々に”誘拐事件”として世間が騒ぎ出し…

これだけを読むと大学生による少女の誘拐事件の話なのかと思われますが,読み手だけに明かされる更紗と文の真実を知ることで,この物語は全く別のストーリーへと変わっていきます。

一つの事件には必ず,被害者と加害者が存在します。SNS が発達し,情報が溢れる現代において,その一面だけに囚われがちですが,当事者たちにしか分からないことが存在し,目に見えているものだけが真実とは限らないということを強く訴えてくる作品です。

ぜひ一度読んでいただき,2人にとっての幸せや救いとは何だったのか,感じていただけると幸いです。